不動産投資をご存じですか?

「しかし、Sさんは、そうは言っていなかったぞ」「は?Sさんがですか。 何と言っていたのですか?」「夏に着られる礼服はありますか、と」「え、社長に?」「そうだ。

たしかに、これからの時期、あれは暑い。 できれば、梅雨のまえにしてもらいたいな」。
二人の略歴を話すのに比べると、少しはテーマというか、受けるネタを盛り込む必要がある。 ユーモアがいるし、そう、涙を誘うような演出も必要だ。
何の話をしているのだ、と私は思ったが、いずれにしても、G・K社長ならばスピーチは大丈夫だろう、と思って領いた。 「どうだね、恩師はやってくれそうか?」「いえ、まだ、そんな、頼んでいませんし」「早く頼みなさい。
二人で挨拶に行かないと。
店を休んでもいいから、都合のつくときに、すぐ行ってきなさい。 ずるずると先延ばしにしてはいかん」「いえ、社長、あのですね…」。
私は立ち上がって、両手を広げた。 まだ結婚を決めたわけではありません、という言葉が喉まで上がってきたのだが、しかし、それはおかしい。
もっとそれ以前の問題なのだ。 結婚を決めるような間柄ではないと思われる。

したがって、「まだ決めていない」という言葉を発した途端に、彼女との関係の大部分を認めることになってしまう。 けれども、その反面、既に一ヶ月も一緒に暮らしているという事実がある。
世間でいうところの同棲だ。 自分から望んだことでないにしても、強く拒否はできたわけで、すなわち許容したものだ、と思われてもしかたがない。
となると、客観的に見て、もうそういった間柄になっているのかもしれない、という評価も頭を過ぎるのだった。 言葉を探していたところ、店のドアが開いた。
入ってきたのは、MY子さんだった。 気づかなかったが、白いベンツが駐車場に乗りつけられている。
「あ、どうも、これはこれは」G・K社長が、首を疎めた格好でカウンターの方へ出迎えた。 「ちょっとちょっと、T君」いきなり私の方へ指をさす。
「駄目じゃないの。 こんな時間まで仕事してちゃ。
可哀相でしょう、T子さんが」次に、目の前にいるG・K社長を晩みつける。 「貴方も、少しは考えたら?新婚同然なのよ。
残業させるってどういう了見?」一瞬、猟犬はテリアかプードルだ、と私は連想した。 「あ、いえ、その…」G・K社長は壁の時計を見た。
私も時計を見た。 もうすぐ八時だった。

そんなに非常識な時刻とも思えない。

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